
人間は全て感情によって動く生き物です。したがって、相手の話が論理的に正解でも、感情的には受け入れられないということはよくあります。
人は自分の求めている感情を得られる場所に行こうとし、その感情を得られる場所に集まります。
つまり人は「自分は存在していいのだ」という安心だったり、「受け入れられているのだ」と繋がりを感じたり、「自分は認められているのだ」とか「尊い存在なのだ」という承認を求めるのです。
したがって、コミュニケーションのにおいては、多くの人の認められたい感情を満たすことが大事です。
マズローの欲求5段解説
マズローの欲求5段階説とはアメリカの心理学者アブラハム・マズローが人間の欲求を5段階で理論化した自己実現論です。この理論では「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定して人間の欲求について作られた理論です。
この理論によると人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されており、低階層の欲求が満たされるとより高階層の欲求を欲するとなっています。それらは、「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5つの階層に分かれています。
多くの人が渇望し苦しむ”承認欲求”
人間の欲求の5段階の中の「承認欲求」とは、所属する集団の中で高く評価されたい、自分の能力を認められたい、という欲求です。
現代社会においては、基本的には文化的で安全な生活を送ることができますので「生理的欲求」・「安全の欲求」は満たすことができます。また、学校や会社といった所属する先によって、「社会的欲求」を満たすことができます。
しかし、学校や会社に所属をしているだけでは承認欲求を満たすことはできません。そこで、スポーツや勉強で、友達からすごいと言われたり、会社で営業成績を上げて、上司から評価してもらうことで承認欲求が満たされるのです。
また、SNSなどで、充実した生活ぶりを発信することで、「いいね!」をつけてほしいと思う気持ちなども、承認の欲求に該当します。
承認の欲求は、さらに「低位の承認欲求」と「高位の承認欲求」に分類されます。「低位の承認欲求」とは、他人に注目されたり、賞賛されたりすることを求める欲求のこと。いわば「誰かに褒められたい」という気持ちにあたります。
人間の1番の関心ごとは「自分自身」
基本的に、人間の関心ごとは相手でなく「自分自身」です。先ほどのマズローの欲求5段階説にも通じますが、人は皆基本的に「自分を理解してほしい」と思っています。そのため自分に理解を示してくれる人、自分のことを理解しようとしてくれる人には心を開いていきます。
「自分のことが好き」という人はもちろん、「どうせたしなんか…」と卑下する人も、自分に関心を持って欲しいという欲求があります。
人は「自分が重要な人間だと認めてもらい感謝されること」に対する強い欲求があります。例えば、会社で出世して年収が1000万円になったとします。ここでの喜びの対象はお金もあるかもしれませんが、年収1000万円に値する人間として評価されていることに対するものが大きいのです。
たとえお金をもらっても自分が重要な人間であると思えなければ幸せを感じることはできないのです。
SNSにおいても、いいね!の数が嬉しいのではなく、それだけ重要な人間なのだという実感が持てる。これが喜びの対象なのです。
話を聴く時は解決やジャッジではなくサポート
このように、「認められたい」という欲求を満たす上で上で大事になってくるのが、コミュニケーションにおいての「聴く力」です。
「きく」の漢字には、「聞く」と「聴く」という字がありますが、「聞く」の方はどちらかというと受動的。「聴く」という漢字は、心を寄せた能動的な行為です。
人から何かの相談を受けたとき、皆さんはいきなり正論を言ってないでしょうか?そして相手の課題を解決しないといけないと思い込んでいないでしょうか?
まずは相手の言っていることを心で受け止めないと、相手の「認めて欲しい」という欲求を満たせないし、例えばそれが部下の相談に乗るようなシーンであれば、いつも先回りして答えを与えていたら、相手が自ら考えて答えを出せるようになり自立することを阻害してしまします。
部下が、上司に提案を持ってきたとします。こんな時、上司は自分の過去の経験などから、良し悪しの判断をすることが多いですよね。これは上司自身の過去の経験による判断です。
このようなケースは、部下が話した「事柄」に焦点が向いて、「人」に焦点が向いていない状態ともいえます。
部下が話している途中で、問題を解決してあげなければならないと思う上司は多いと思いますが、これでは部下は自分で学び、自分で答えを出せる人材には育ちません。
スピードが大事なビジネスシーンにおいては、すぐに答えを求められることも多く、致し方ない部分はありますが、部下の言葉にはそれに至った背景の考えがあり、それを汲み取ることで、「自分は認められている」「必要とされている」という自尊感情を保つことができ、成長意欲にも繋がります。
これは、商談の場において、クライアントがどういうニーズを持っているかを深掘りするときにも重要です。
ただの正論は相手も知っていること。でもその正論通りにできない何かが背景にあるのです。
その背景にあるものを知るために聴くことが大事なのです。この「聴く力」は、商談の場においてクライアントがどういうニーズを持っているかを深掘りするときにも必要です。
例えば、営業マンが商品を提案した際に、お客様に「この商品は自分には合わないな」と言われた時、畳み掛けるように商品のメリットを並び立てる前に、「どのようなことが懸念されますか?」「具体的にはどのような点が気になられますでしょうか?」と聴いてみる。すると、「実は以前にこういうことがあって……」などと、お客様の「記憶」が言葉になり、気になっているポイントが明らかになったりするわけです。
このように、すぐに解決しないといけない、ジャッジしないといけないという思いは、自分自身が経験のあることについてすぐに先回りしてしまって相手の成長を阻害したり、早合点をしてクライアントの気持ちに寄り添えなかったりという結果を招いてしまうのです。
カウンセリングの現場でも、基本はクライアントを「正す」のではなく「理解すること・受け入れること・認めること」です。そして悩みの「背景」にある課題の解決のサポートをすることを大切にしています。
まとめ
誰しも「認められたい」という欲求があり、そしてこうした自尊感情を傷つけられまいと自分を守ろうとします。なので、例え正論であったとしても、人は簡単に受け入れることができないのです。
人間関係で大事なのは「正しさ」よりも「朗らかさ」。「正しさ」で完全武装して、他人を跳ね除ける人に魅力を感じるでしょうか?
本当に魅力的な人というのは、自分の正しさに固執せず、自分を客観視し、他人の価値観を受け入れることができる、そんな人ではないでしょうか?
コミュニケーションする際、相手の話を理解しているつもりでも、必ずそこにはバイアスがかかっています。バイアスは誰しも必ずあることで完全に取り去ることはできません。
したがって、まずは“バイアスがかかっている”状態を「自覚」することです。自分の思考や行動を自分自身が客観視し、自分の正しさで相手を捌いていないか、相手の言葉だけではなく、その背景の心に触れることができているか、そうやって常に謙虚な姿勢で相手の話を聴くこと、これが「聴く力」なのです。